Keizo Murai
アンナ・カヴァン著「氷」は、「トリップ」を疑似体験できる。
この作品は、普通の小説ではありません。
次第に氷に閉ざされてゆく終末期を迎えた世界でのお話。
主人公である「私」は、ひとりの少女を追い求め、旅に出ます。
そのただならぬ道行きを描くのですが、
その、描きかたが尋常ではないのです。
まず、
登場人物には名前はおろか、
その人となりすら描かれていません。
そして、
同じ文脈の中に、主人公の心象風景が描かれていきます。
読み進めていくと、いつのまにか別なお話になっていくので、
夢の中にでもいるような感覚になってしまいます。
まるで「トリップ」しているかのように。
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アンナ・カバンは、
ドラッグの常習者であることを踏まえて読むと、
この感覚が理解できるかもしれません。
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この小説を読むにあたって、
もう一つ重要なことを知っておく必要があります。
それは、
時代時代によって「男から女への求愛の方法」は異なる、ということです。
今では、犯罪になるようなことでも、
昔は平気で行われていたりします。
太古の昔には、「略奪」による愛の表現もありました。
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この小説の主人公は、どんなに嫌われようとも
しつこく少女を追い求めていきます。
完全にストーカーです。
が、しかし、
この作品が書かれた時代には、
「ストーカー」の概念はありません。
これを踏まえたうえで、この作品を読まないと
この作品の言わんとすることを誤解してしまうかもしれません。
