Keizo Murai
泉鏡花「栃の実」を単なる紀行文と侮ってはイケナイ。
鏡花自身が福井から近江へ旅をした際の紀行文です 幻想譚でも何でもありません。
が、しかし。
表現の素晴らしいこと、この上ないです。 例えば冒頭のこの一文。
「古の名将、また英雄が、涙に、誉に、 屍を埋め、名を残した、あの、山また山、 重なる峠を、一羽でとぶか、と袖をしめ、襟を合わせた」
旅立つときの高揚感が伝わってきますねぇ。
------ おぼつかない足取りで出立する鏡花を いつまでも見送り続ける車夫。
鏡花は振り返り、こう書き記します。
「翼をいためた燕の、 ひとり地ずれに辿るのを、あわれがって、 去りあえず見送っていたのであろう」
決して屈強な体ではない鏡花。 よほど危なげに見えたのでしょうかねぇ(;^_^A
------------- 残暑の日差しが厳しい道中。 日傘もなければ扇子もない。 道端にあるのは、 役にも立ちそうにない蘆(アシ)だけである。
鏡花は、こう書き記します。
「湯のような浅沼の蘆を折取って、 くるくるとまわしても、何、秋風が吹くものか」
風流ですねぇ(;^_^A
